派遣元事業主の皆様へ:なぜ今、指導監督状況のチェックが必要なのか?

東京労働局が発表した令和6年度の民間人材ビジネスに係る指導監督状況は、労働者派遣事業を行う皆様にとって、決して他人事ではありません。このデータは、当局の監督の「傾向と対策」を読み解くための羅針盤です。

令和6年度の東京労働局の指導監督は、延べ4,291事業所に実施され、そのうち労働者派遣事業延べ3,135事業所と最も多くを占めています 。また、4,010件是正指導(文書指導)が行われ、こちらも労働者派遣関係が3,013件と圧倒的多数です 。この数字は、当局の指導監督の重点が、依然として労働者派遣事業に置かれていることを示しています。

さらに注目すべきは、2事業主に対して行政処分(業務改善命令)が発出されている点です。処分理由はいずれも法定の除外理由なく労働者供給事業を行った」という、派遣事業の根幹に関わる重大な違反です 。行政処分は事業継続に大きな影響を及ぼします。

派遣に強い社会保険労務士として、この厳しいデータから、派遣元事業主の皆様が今すぐに見直すべき3つの重要ポイントを解説します。

行政処分事例から学ぶ:「労働者供給事業」と「偽装請負」の排除徹底

令和6年度に2件発出された業務改善命令の処分理由は、「法定の除外理由なく労働者供給事業を行った」というものです 。

これは、職業安定法第44条で禁止されている労働者供給事業に該当する、またはそれに準ずる行為があったことを意味します 。具体的な事例としては、請負契約と称しながら実態は労働者派遣と変わらない「偽装請負」が挙げられます 。

派遣事業主として健全に事業を運営するためには、次の点を徹底しなければなりません。

  • 契約実態の再点検: 請負契約として業務を受けている場合、発注者(派遣先)からの業務遂行方法への指示・命令がないか、請負元の独立性が確保されているかを厳しくチェックしてください。
  • 多重派遣の排除: 令和7年度の指導監督方針でも「多重派遣を行う事業者に対しては、行政処分を含む厳正な指導監督を実施」と明記されています 。契約書だけでなく、現場の指揮命令系統まで確認し、多重派遣を絶対に許容しない体制を構築する必要があります。

「うっかり」では済まされない、事業の根幹に関わる重要事項です。少しでもグレーな部分があれば、直ちに契約の見直しと現場オペレーションの改善に着手してください。

是正指導件数から見る!法令遵守の基本「台帳」と「明示」の徹底

労働者派遣事業に対する是正指導(文書指導)は3,013件と非常に多くなっています 。その中で、主な指導内容として繰り返し指摘されているのは、派遣事業の「基本」に関する事項です。

(1)「台帳」の記載不備が最も多い落とし穴!

派遣元事業主に対する指導内容の筆頭に挙げられているのが、派遣元管理台帳の記載内容の不備です 。また、派遣先に対する指導内容でも、派遣先管理台帳の記載内容の不備が指摘されています 。

台帳は、派遣労働者の就業実態、待遇、そして「同一労働同一賃金」への対応状況を証明する最も重要な法定帳簿です。

  • 派遣元管理台帳(労働者派遣法第37条第1項): 記載すべき事項が漏れなく、かつ正確に記入されているか、定期的に監査する仕組みが必要です。

(2)就業条件の「明示」と「協定」の再確認

次に多い指摘は、就業条件の明示(労働者派遣法第34条第1項)に関する不備です 。労働者への不利益を避けるためにも、以下の項目を徹底的に見直してください。

  • 就業条件の書面による明示がされていない、または明示内容に不備がないか。
  • 労使協定の締結(労働者派遣法第30条の4第1項)に関して、協定の内容自体に不備がないか 。

「基本だから大丈夫」と過信せず、台帳と明示は派遣事業の背骨と認識し、毎月の運用チェックリストに組み込みましょう。

最重要課題:「同一労働同一賃金」と「公正な待遇の確保」への対応

令和7年度の指導監督方針の最重要項目として、「同一労働同一賃金など派遣労働者の公正な待遇の確保に向けて、労働者派遣事業の運営が適正に行われるよう、法制度の周知徹底や指導監督を実施」が掲げられています 。

これは、待遇決定方式が労使協定方式であれ派遣先均等・均衡方式であれ、実効性のある対応が求められているということです。

(1)派遣先との情報連携の徹底

指導内容にもあるように、派遣先から比較対象労働者の待遇等に関する情報提供がないまま派遣契約を締結する行為(派遣元)や、派遣元事業主へ情報提供をしない行為(派遣先)が指摘されています

  • 派遣契約締結の禁止(労働者派遣法第26条第9項): 派遣先からの比較対象労働者の待遇等に関する情報提供を得るまで、絶対に派遣契約を締結しないこと。

(2)情報提供の義務の履行

マージン率等の情報提供(労働者派遣法第23条第5項)が関係者に対し適切に行われていない事例も指摘されています 。透明性の確保は信頼の基盤です。労働者がいつでも確認できる状態を維持してください。

まとめ:法令遵守は「事業継続」の前提条件

令和6年度、東京労働局管内の労働者派遣事業所数は12,551に上り、依然として増加傾向にあります 。市場が拡大する一方で、当局の監視の目も厳しさを増しています。行政処分の事例や、数千件に上る是正指導は、法令遵守が事業継続の前提条件であることを雄弁に物語っています。

「偽装請負の排除」「台帳・明示の確実な履行」「同一労働同一賃金への実効性のある対応」

この3つのポイントを今一度見直し、リスクをゼロにするための社内体制を構築することが、これからの派遣元事業主の皆様に強く求められています。貴社の法令遵守体制に不安がある場合は、HRストーリーズ社会保険労務士法人、派遣に強い社会保険労務士にご相談いただくことを強く推奨いたします。