2020年の改正派遣法施行以降、多くの派遣元企業が「労使協定方式」を選択していますが、この方式は一度作成して終わりではありません。毎年の「同等以上の賃金」の確認や、法改正・通達への迅速な対応が求められる非常にデリケートな業務です。

派遣法・労使協定方式における「作成・運用」の重要ポイント

労使協定方式を採用する場合、ただ書面を作成するだけでなく、以下の5つの柱を確実に押さえる必要があります。

1. 「一般賃金」の正確な適用と更新

労使協定方式の肝は、厚生労働省が毎年公表する「職業安定業務統計」等の一般基本給・賞与等の額(一般賃金)を下回らない賃金を支払うことです。

  • 職種の選定(職務内容の解釈): 統計上の職種と、実際の派遣労働者の業務内容を慎重に照らし合わせる必要があります。安易に低い賃金設定の職種を選定すると、後の調査で「実態と乖離している」と是正勧告を受けるリスクがあります。
  • 能力・経験調整指数の適用: 勤続年数に応じた指数の乗じ方が正しいか、また、地域指数(就業場所の指数)が最新のものになっているかを必ず確認してください。
  • 年度更新の徹底: 一般賃金は毎年更新されます。有効期間を「1年」としているケースが多いですが、最新の数値が公表された後、速やかに次年度の協定を締結し直さなければなりません。

2. 労働者代表の選出プロセス(最重要)

実務上、最も不備が指摘されやすく、かつ「協定そのものを無効」にするリスクを孕んでいるのが労働者代表の選出方法です。

  • 民主的な選出: 挙手、投票、持ち回り決議など、労働者の過半数がその人を代表として認めているプロセスが必要です。
  • 会社による指名の禁止: 会社側が「〇〇さん、お願いしますね」と指名したり、親睦会の会長を自動的に代表にしたりすることは認められません。
  • 管理監督者の除外: 代表者は「監督又は管理の地位にある者」であってはなりません。
  • 選出目的の明示: 選出にあたっては「派遣法に基づく労使協定を締結するため」という目的を労働者に明示した上で行う必要があります。

3. 公正な評価制度の構築と運用

労使協定には「派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力等の向上その他の事情の変化に応じた賃金の改善」を盛り込む必要があります。

  • 形骸化の防止: 協定書に「評価により昇給する」と書いているにもかかわらず、実際には評価制度が存在しなかったり、一度も昇給実績がなかったりする場合、法的な要件を満たしていないと判断される恐れがあります。
  • 段階的な賃金設定: 勤続年数やスキルアップに応じた賃金テーブルを明確にし、派遣労働者が「どうすれば賃金が上がるのか」を可視化することが求められます。

4. 教育訓練と福利厚生の均等・均衡

賃金ばかりに目が向きがちですが、以下の項目も必須要件です。

  • 教育訓練: 派遣先に雇用されている通常の労働者と「同等の教育訓練(業務遂行に必要な能力を付与するものや派遣先の労働者に対して実施されているものに限る。)」を実施しなければなりません。特に、実施計画の策定と実施記録の保存は、指導が入った際の重要な証拠となります。
  • 福利厚生(実務的施設): 給食施設、休憩室、更衣室の3点については、派遣先の労働者と同一の利用機会を保障する必要があります。これについては派遣先との連絡調整が鍵となります。

労使協定作成時によくある「落とし穴」

実務でよく見かける不備をまとめました。

項目注意すべき内容
有効期間自動更新条項は原則として認められません。毎年、一般賃金の比較を行う必要があるため、期間は1年(長くとも2年以内)が推奨されます。
手当の取り扱い通勤手当や退職金が「一般賃金」の要件を満たしているか精査してください。特に退職金は「前払い」「中退共への加入」「退職金規程」のいずれかを選択する必要があります。
周知義務協定を締結して保管するだけでは不十分です。常時見やすい場所への掲示、書面交付、イントラネットでの公開など、全派遣労働者がいつでも確認できる状態にする義務があります。

是正勧告を避けるために

行政調査(労働局の需給調整事業部による調査)において、労使協定方式は必ず厳しくチェックされます。もし労働者代表の選出不備などで「労使協定が無効」と判断された場合、派遣先均等・均衡方式(派遣先の社員と全く同じ賃金体系)が強制的に適用されることになります。

これは、派遣元企業にとって計り知れないコスト増と、派遣先への多大な迷惑(賃金情報の開示要求等)に直結します。

今すぐチェックすべき3項目

  1. 現在の労働者代表は、本当に「民主的な手続き」で選ばれましたか?
  2. 最新の「一般賃金」の数値に合わせた賃金改定が行われていますか?
  3. 派遣労働者一人ひとりに、協定の内容を周知していますか?

まとめと次のステップ

労使協定方式の運用は、単なる「書類仕事」ではなく、派遣労働者の処遇改善と企業のコンプライアンス維持を両立させるための経営戦略の一部です。

正確な職種選定や、納得感のある評価制度の構築に不安がある場合は、専門家によるリーガルチェックを受けることを強くお勧めします。

貴社の現在の労使協定書や選出プロセスの議事録など、法的リスクがないか無料で診断させていただくことも可能です。まずは現在の協定書の有効期限を確認してみることから始めてみませんか?