労働者派遣事業は、働く人々の多様な働き方を支え、企業の成長に貢献する、社会にとって欠かせない重要な事業です。しかし、2020年4月の改正労働者派遣法の施行以降、派遣労働者の待遇改善に関するルールはより複雑化し、対応に苦慮されている事業者様も少なくないのではないでしょうか。特に、「同一労働同一賃金」の原則に基づき、派遣労働者の待遇をどう確保していくかは、事業継続の重要な課題となっています。
「労使協定方式」はなぜ多くの派遣元事業主が選択するのか
派遣労働者の待遇を確保する方法には、大きく分けて二つの方式があります。
- 派遣先均等・均衡方式
- 労使協定方式
このうち、多くの派遣元事業主様が採用されているのが「労使協定方式」です。これは、派遣元事業主様と労働者代表が労使協定を締結し、その協定に基づき、派遣労働者の待遇を決定する方式です。派遣先の情報に左右されず、自社の賃金規程や評価制度に基づき、派遣労働者のキャリアアップに合わせた段階的な賃金設定が可能になるため、長期的な人材育成や定着率向上に繋がりやすいというメリットがあります。
また、派遣先均等・均衡方式のように、派遣先からその都度、賃金や福利厚生に関する詳細な情報を収集する手間が省けるため、手続きの簡素化にも繋がります。
労使協定方式では、厚生労働省が毎年公表する「一般労働者の賃金水準(局長通達)」を基準に、派遣社員の賃金を設定します。令和8年度の通達では、通勤手当が73円から79円に引き上げられるなど、待遇水準の上昇が示されました。
派遣労使協定の作成に必要な要素
労使協定には、以下のような内容を明記する必要があります:
- 対象となる派遣社員の範囲
- 賃金の決定方法(職種別平均賃金 × 能力・経験指数 × 地域指数)
- 昇給制度や退職金制度の有無
- 教育訓練や福利厚生の提供内容
- 協定の有効期間
また、過半数代表者の適切な選出も重要です。民主的な手続き(投票や挙手など)で選出され、労働者の信任を得ていることが求められます。
職務等級制度と賃金テーブルの整備
派遣社員のキャリア形成や処遇の透明性を高めるためには、職務等級制度の導入と賃金テーブルの整備が不可欠です。これにより、スキルや経験に応じた公正な評価と昇給が可能となり、派遣社員のモチベーション向上にもつながります。
等級制度の設計では、以下のようなステップが一般的です。
- 職種ごとの業務内容と責任範囲の明確化
- 能力・経験に応じた等級区分の設定
- 各等級に対応する賃金水準の設定(局長通達に基づく)
労使協定方式の構築には専門的な知見が不可欠です
労使協定方式はメリットが多い一方で、その運用には専門的な知識が求められます。特に注意が必要なのが、厚生労働省の「局長通達」で示される「同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金水準」です。派遣元事業主様は、この水準を上回る賃金を派遣労働者に支払わなければならず、毎年更新される最新の局長通達を正確に把握し、賃金テーブルに反映させる必要があります。
さらに、派遣社員の職務等級や賃金テーブルを、公正な評価に基づいて作成しなければなりません。業務内容、成果、能力、経験などを適切に評価し、賃金に反映させる仕組みを構築することは、派遣社員のモチベーション維持にも不可欠です。しかし、これは単に数字を当てはめる作業ではなく、個々の事業所の特性や労働実態に合わせた、きめ細やかな設計が求められます。
これらの要件を一つでも満たしていない場合、労使協定が無効とみなされ、派遣先均等・均衡方式の原則が適用されてしまうリスクがあります。これは、事業運営に大きな混乱を招きかねません。
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